研究テーマ----特異点論とは何か

現象を数理的に記述しようとする目的で、人間はさまざまのものを観測します。 そして観測結果を解析するとき、周りの他の点とは際だっ て異なって見える点に注目しますが、 数学的にはその様な点は特異点として認識されます。 特異点論とはこのような点を解析するための理論です。 微積分の言葉で説明すれば、例えば、 「陰関数定理の成り立たないところを特異点と言います。 そして、特異点論とは陰関数定理が成り立たないところで何が起こっている かを説明するための理論であるといえます。」となります。 実際の問題では、多くの場合、特異点を観測して物事を認識している と考えられますが、(陰関数定理が成り立たないが為に)そこでの 解析は易しくない場合が多いのです。

私は特異点へのアプローチは大きく分けて二つあると考えています。 一つは特異点解消という考え方です。 これは、要するに、何とかして合理的に特異点を特異点でないように思おう、 と言うことです。 そして、特異点の解消の様子が良くわかれば特異点の様子もわかるであろう、 と考えるわけです。 現在、 blow-up したら解析的に同型になる位相同値という考え方で、 実多項式の零点集合や写像の分類問題に取り組んでいます。 なお、 blow-up したら解析的に同型になる位相同型というのは ある意味では微分可能な(または解析的な)位相同型と考えられ、これはそれ自身 非常に興味深い対象です。

もう一つの考え方は、悪い特異点はわからないから摂動して 特異点を簡単にしてしまって、その簡単な特異点についての理論を作ろう という考え方です。 そのような意味で簡単な特異点のリストについては、 すでに多くの人の分類結果があります。 私は悪い特異点を摂動したときに簡単な特異点たちがどのように現れるかと言うことを 説明する理論を作りたいと思い、現在この問題も考えています。

また最近は特異点論の微分幾何学への応用にも 興味を持っています。 例えば、古典微分幾何学での多くの概念は距離二乗関数の特異点として認識されます。 特異点論だと思って古典微分幾何学を見直すと、新たな発見につながる 可能性があると思っています。