歴史的曲線

歴史的曲線

酒井文雄

(2002年2月記)

平面曲線は身近な存在である.もちろん,古代人も直線を知っていた.有名なユークリッドの原論(B.C. 300年頃)は直線と円の幾何学である.放物線 (parabola), 楕円 (ellipse), 双曲線 (hyperbola)は円錐の切り口として研究され, 円錐曲線 (conic section)とよばれた.アポロニウス(B.C. 250 - 175)による円錐曲線の研究は有名である.興味深いことに,円錐曲線を考察した動機は古代ギリシャ数学の3大問題の1つ,2倍の体積をもつ立方体の作図であったという. 17世紀前半に座標幾何がデカルトおよびフェルマーによって創始され,円錐曲線は 2 次曲線として理解されるようになった.その後,いろいろな曲線が発見され,研究の対象になった.ここでは,興味深い曲線を紹介し,その歴史を振り返ってみたい.

目次

  1. デカルトの葉線
  2. パスカルの蝸牛曲線
  3. ネイルの放物線
  4. スルーズの真珠形曲線
  5. カッシーニの卵形曲線
  6. バラ曲線
  7. 3尖点曲線
  8. 悪魔の曲線
  9. ラメ曲線
  10. リサージュ曲線
  11. 三角帽子曲線
  12. 梨形4次曲線
  13. 古代ギリシャの三大問題
  14. 参考文献

17世紀

デカルトの葉線

この曲線は1638年にデカルトによって発見された. 葉線 (folium) というのは葉っぱの形をした曲線という意味である.

x3 + y3 - 3axy = 0

次の曲線は2枚の葉っぱの形をした双葉(ふたば)曲線である.

(x2 + y2)2 - 4axy2 = 0

パスカルの蝸牛曲線

(x2 + y2 - 2ax)2 - b2(x2 + y2) = 0

この曲線は1650年にE.パスカル(B.パスカルの父親)によって発見された.蝸牛(かたつむり)を意味するラテン語に因んで リマソン曲線とよばれている.極方程式は r = b + 2a cos θ である.b = 2a のときには, カージオイド曲線 (cardioid)(心臓形曲線)になる.これは,円に外接する円上の点の軌跡である.

ネイルの放物線

y3 - ax2 = 0

1657年にこの尖点3次曲線の弧長がネイルによって計算された.

スルーズの真珠形曲線

yn - k(a - x)pxm = 0

これらの曲線族の特別な場合はスルーズが研究した(1657−1658年). 真珠形曲線(Pearls of Sluse)という命名はパスカルであるという.

カッシーニの卵形曲線

(x2 + y2)2 - 2a2(x2 - y2) + a4 - c4 = 0

この曲線は 2 点からの距離の積が一定値 c2 に等しい点の軌跡として,1680年に天文学者カッシーニによって発見された.とくに,c = a のときはちょうど8の字の形の曲線になり, レムニスケート曲線(lemniscate,J.ベルヌーイの研究,1694年)とよばれている.このレムニスケートという語はペンダントのリボンという意味である.後に,オイラーはレムニスケート曲線の弧長の研究を進めた.

18世紀

バラ曲線

r = a sin (kθ)

このような曲線は バラ曲線 (Rhodonea-curves) とよばれ,イタリアの数学者グランディによって研究された(1720年代).例えば,a = 1, k = 2 の場合,方程式は次で与えられる.

(x2 + y2)3-4a2x2y2 = 0

問題 極方程式 r = a cot θ で与えられる曲線の定義方程式を求めよ.また,この曲線を描け.この曲線は形状からカッパー曲線とよばれている.

3尖点曲線

(x2 + y2 + 12ax + 9a2)2 - 4a(2x + 3a)3 = 0

このような 3尖点4次曲線 (tricuspid) はオイラーによって1745年に研究された.

悪魔の曲線

y4 - x4 + ay2 + bx2 = 0

名前は中央の曲線の形がディアボロ(diabolo)とよばれる空中ゴマの形状に似ていることに由来する. 1次方程式論で有名なクラメールが1750年に研究した曲線である.

19世紀

ラメ曲線

(x/a)n + (y/b)n - 1 = 0

これらの曲線族は1818年にラメが研究した.n が偶数であれば,n が大きくなるにしたがって,長方形に近づいていく.n が奇数でも第一象限の部分では長方形の一部分に近づいていく.一方,n = 2/3 の場合,1691年にベルヌーイによって研究された アステロイド曲線 (asteroid,星形曲線) になる.アステロイド曲線は4尖点曲線 (tetracuspid) ともよばれ,その定義方程式は (x2 + y2 - 1)3 + 27x2y2 = 0 である.

問題 ラメ曲線 x3/2 + y3/2 = 1 の定義方程式は (x3 + y3 - 1)2 - 4x3y3 = 0 である.一般に,n が有理数の場合に,ラメ曲線の定義方程式を求める方法を考えよ.また,負の指数のラメ曲線 x-m + y-m = 1 についても考察せよ.

リサージュ曲線

x = a sin(nθ + b), y = c sin(mθ + d)

フランスの物理学者リサージュは三角関数を用いてパラメータ表示された曲線を考察した(1850年).1815年に,先駆的な研究がボウディッチによって行われているので,ボウディッチ曲線とよばれることもあるそうである.例えば,x = cos(5θ), y = cos(3θ) で定義される曲線の方程式は 4x3 - 3x - (16y5 - 20y3 + 5y) = 0 である.

問題 リサージュ曲線 x = cos (n θ), y = sin (m θ) の慨形を描け.また,定義方程式を求めよ.

三角帽子曲線

y2(a2 - x2) - (x2 + 2ay - a)2 = 0

このような2尖点4次曲線は,シルベスター(1864年)およびケイレー(1867年)によって考察された.

梨形4次曲線

b2y2 - x3(a - x) = 0

この尖点4次曲線はド・ロンシャンによって研究された(1886年).上で述べたスルーズ曲線の1種である.

問題 半径 b の円 C が半径 a の円 D に内接して滑らないように回転するとき,回転する円上の点 P の軌跡の作る曲線を ハイポサイクロイド曲線 (hypocycloid)という.この曲線は次のようにパラメータ表示されることを示せ.

((a - b) cos θ + b cos (a/b - 1)θ, (a - b) sin θ - b sin (a/b - 1)θ)

とくに,b = a/4 のとき,この曲線は,(a cos3θ, a sin3 θ) でパラメータ表示され,アステロイド曲線になることを確認せよ. 同様に,C が D に外接して回転するときの P の軌跡の作る曲線を エピサイクロイド曲線 (epicycloid)という.この曲線のパラメータ表示を求めよ.

古代ギリシャの三大問題

古代ギリシャの三大問題と平面曲線との関係をまとめておく.元々の問題は直線コンパスのみを用いた作図問題であり,その限りでは解くことは不可能である.

(1) 2倍の体積をもつ立方体の作図.これは,長さ 1 が既知のときに,2 の立方根 3√2 を作図する問題に他ならない.メナイクムス( B.C. 4世紀)は 3√2 が放物線 y = x2 と双曲線 xy = 2 の交点の x 座標であることを指摘した.

(2) 角の 3 等分の作図.直線 L: y = 0 と点 O = (0,-1) が与えられているとする.直線 L 上の点 A が動くとき,O と A を結ぶ直線上の点で,A からの距離が一定 a である点の軌跡が描く曲線をニコメデス( B.C. 3世紀)の コンコイド曲線という(意味は貝殻曲線).

定義方程式は (y2 - a2)(y + 1)2 + x2y2 = 0 で与えられる.この曲線を用いると角の 3 等分を作図することができる. その後,パップス(4世紀)は円と双曲線の交点を用いて角の 3 等分を作図する方法を考案した.

(3) 円と等しい面積をもつ正方形の作図.これは,円周率の作図と同値である.一辺が 1 の正方形を考え,その一辺 AD が頂点 A 中心に等速度で回転し,直線 DC が下向きに等速度で動き,同時に辺 AB に到達するとする.このとき,交点 P の軌跡で与えられる曲線を 円積曲線 (quadratrix)という.この曲線は r sin θ = 2θ/π で表される超越曲線であり,辺 AB とは 2/π で交わる.この曲線はヒッピアス(B.C. 5世紀)によって考えられた.円積曲線上の点 (r,θ) の y 座標は 2θ/π であるので,円積曲線は角の等分問題にも用いられる.

参考文献

  1. 飯高茂:平面曲線の幾何.共立出版, 2001
  2. クネーラー(金井省二,秋葉繁夫訳):幾何学(上下). シュプリンガー東京, 1999
  3. デカルト(原亮吉訳):幾何学(デカルト著作集1). 白水社, 1973
  4. ヒース(平山寛他訳):ギリシア数学史(復刻版). 共立出版, 1998
  5. ボイヤー(加賀美鐵雄,浦野由有訳):数学の歴史. 朝倉書店, 1984
  6. Loria,G.:Spezielle algebraische und transzendente ebene Kurven. Leipzig, 1910
  7. Shinkin,E.V.:Handbook and Atlas of Curves. CRC Press, 1995
  8. van der Waerden,B.L.:Science Awakening. P.Noordhoff LTD, 1956
  9. Famous Curves Index (School of Mathematics and Statics, University of St. Andrews)

備考:曲線の描画には代数曲線描画ソフト ICURVE (制作者:戸野恵太)を用いた.

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