グレブナ基底

グレブナ基底

多項式環の研究方法にグレブナ基底理論があり,計算機による数式処理の原理として注目を集めている.基礎になる考え方は割り算原理を多変数の場合に工夫したものである.グレブナ基底理論は代数幾何の応用という今後の課題への第一歩でもある.

体K上の多変数多項式環 K[x1, ..., xn] の構成的な研究方法であるグレブナ基底理論は1965年にブーフベルガー(Buchberger)によって導入された.グレブナはブーフベルガーの指導教官 W.Gröbner に由来する.単項式全体の集合に順序を付けて一列に並べることから話が始まる.代表的な順序には辞書式順序と次数付き辞書式順序がある.以下,その順序を固定して話を進める.

辞書式順序

x 3y 3 > x 2y 5 や x 4y 3 > x 4y 2 で定めた順序である.

次数付き辞書式順序

x 3y 3 > x 4y や x 3y 3 > x 2y 4 で定めた順序である.

多項式 f の項のなかの最大の順序をもつ項を LT(f) で表し,LT(f) の係数を除いた部分(単項式)を LM(f) で表す.

有限個の単項式の集合にも順序を定義することができる.多項式 f に含まれる単項式の集合 M(f) の順序により多項式全体に半順序が定まる.

1変数の場合の割り算原理を復習してみよう.自然な順序 1 < x < x 2 < x 3 ...が入っていると考える.多項式 f, g について,LM(f) ≧ LM(g) のとき,LT(f) は LT(g) で割り切れるので,

f * = f - (LT(f)/LT(g))g

とおくと,M(f *) > M(f) が成立する.通常の割り算原理は,この操作を有限回くり返すことにより,割り算の剰余に到達し,その剰余が一意的に定まるという仕組である.

多変数の場合にもまねをしてみよう.多項式 f, g について,f に LM(g) で割り切れる項 h があるとき,次の操作を定義し,f の g による簡略化とよぶ.

f * = f - (h/LT(g))g

多変数の多項式の場合には,有限個の多項式 g1, ..., gs による簡略化を同時に考えることが必要になる.そのために,G = {g1, ..., gs} とおき,G による簡略化を G の中のどれかのgi による簡略化と定義することにする.与えられた多項式 f の G による簡略化を有限回くり返すことにより,それ以上の簡略化が不能な多項式 r に到達する.この剰余 r の性質は次のようにまとめられる.

多項式 f と多項式の組 G = {g1, ..., gs} をとる.このとき,多項式 r および q1, ..., qs が存在して,f = q1g1 + ... + qsgs + r と表され,次の条件が満たされる.

これで割り算原理になるのであればよいのであるが,多変数の多項式の場合には G の中の gi を選ぶ順序によって異なった剰余になることがあるのである.つまり,剰余の一意性が保証されないのである.

剰余の一意性が成立するとき,G = {g1,...,gs} はグレブナ基底であるということにすると,次の定理がグレブナ基底理論の基礎になる.

基本定理(ブーフベルガー)

K[x1, ..., xn] の任意のイデアル I には I = (g1, ..., gs) となるグレブナ基底 G = {g1, ..., gs} が存在する.

実はただ存在するだけではなく,グレブナ基底を求めるためのアルゴリズムが考案されている.Mathematica, Maple, Asirなどの数式処理ソフトには Q 上の多項式イデアルのグレブナ基底を求めるパッケージ・ソフトが組み込まれている.

グレブナ基底理論は代数幾何,環論,数論,特異点論,微分方程式論などへの広い応用が開発され活発に研究されている分野である.

参考文献


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