距離と開集合

第1章

距離と開集合

遠い近いを測る距離があれば,開集合の概念を導入して,収束や連続についてより詳しく考えることができる.現代数学の方言だと思って,理屈ではなく,述べ方や考え方に慣れるのが重要である.

目次

  1. 距離
  2. 開集合
  3. 閉集合
  4. 連続写像

1.1 距離

集合 X の距離とは関数 d : X×X → R で次の条件を満たすものをいう.
  1. d(x, y) ≧ 0 であり,d(x, y) = 0 となるのは x = y のときに限る.
  2. d(y, x) = d(x, y) (対称性)
  3. d(x, z) ≦ d(x, y) + d(y, z) (三角不等式)
距離 d が与えられたとき,X を距離空間とよんで,(X,d) で表す.また,X の元をということにする.

Rn の 2 点 x = (x1, ..., xn),y = (y1, ..., yn) 間の距離は

で測るのが普通である.この距離を Rn通常の距離という. 距離空間 (Rn,d) を n 次元ユークリッド空間という.

問題 通常の距離 d(x, y) が距離になることを確かめよ.

以下距離空間 (X,d) を考察する. 点 x の ε-開球を Bε(x) = { y ∈ X | d(x, y) < ε } で定義する.

距離空間の点列には収束の概念が定義される.

定義 1.1 X の点列 { xn} が点 x ∈ X に収束するとは,任意の正数 ε に対して,ある自然数 N が存在して,n ≧ N のとき,xn ∈ Bε(x) が成立することをいう.このとき,x を点列 { xn} の極限 であるといい,記号では limn→∞ x n = x あるいは xn → x で表す.

1.2 開集合

開集合という概念を導入する. 部分集合 U ⊂ X について,U のどの点をとっても,正数 ε が存在して,Bε(x) ⊂ U が成立するとき,U は開集合であるという

定理 1.2 [開集合の性質]

(i)   X 自身および空集合は開集合である.

(ii)  有限個の開集合 U1, ..., Un の共通部分 U1∩・・・∩ Un は開集合である.

(iii) 開集合の族 Uλ (λ ∈ Λ) について,和集合 ∪λ∈ Λ Uλ は開集合である.

証明 (i) X が開集合であることは明らかである.空集合については,属する点がないのであるから,開集合の条件を満たしていると考えることができる.

(ii) 任意の点 x ∈ U1∩ ・・・∩ Un をとると,各 i について,x ∈ Ui である.したがって,正数 εi が存在して,Bεi(x) ⊂ Ui となる.そこで,ε = mini { εi } とおけば,Bε(x) ⊂ U1∩・・・∩ Un となり,U1∩・・・∩ Un が開集合であることがわかる.

(iii) 任意の点 x ∈ ∪λ∈ ΛUλ をとれば,ある λ があって,x ∈ Uλ となる.このとき,ある正数 ε が存在して,Bε(x) ⊂ Uλ⊂ ∪λ∈ΛUλ となるので,∪λ ∈ ΛUλ は開集合である.

1.3 閉集合

X の部分集合 F が閉集合であるとは,F の任意の点列 { xn } が x ∈ X に収束すれば,点 x は F に属することをいう.

問題 R において,閉区間 [a,b] は閉集合であることを示せ.

命題 1.3 F が閉集合である必要十分条件は補集合 Fc が開集合になることである.

証明 十分性は容易にわかるので,ここでは必要性を見ておく.F を閉集合とし, 補集合 Fc が開集合でないと仮定する.そうすると,ある点 x ∈ Fc が存在して,どんな正数 ε に対しても,Bε(x) Fc である.したがって,各自然数 n について,xn ∈ B1/n(x) かつ xn Fc となる xn が存在する.このとき,点列 { xn} は x に収束するので,F が閉集合であれば,x ∈ F でなければならない.これは,x ∈ Fc に矛盾する.

問題 [閉集合の性質] 

  1. X 自身および空集合は閉集合である.
  2. 有限個の閉集合 F1, ..., ,Fn の和集合 F1∪・・・∪ Fn は閉集合である.
  3. 閉集合の族,Fλ (λ∈ Λ) について,共通部分 ∩λ∈ ΛFλ は閉集合である.

定義 1.4 距離空間 X の部分集合 A が与えられているとする.点 x ∈ X が A の触点であるとは次の同値な条件が成立することをいう.

  1. x に収束する A の点列 { xn} が存在する.
  2. x を含む任意の開集合 U について,U ∩ A は空集合である.
  3. 任意の正数 ε について,Bε(x) ∩ A は空集合にはならない.
部分集合 A の触点全体の集合を A- で表して,A の閉包という.定義により,A が閉集合であることと A- = A が成立することとは同値である.

問題 開区間 (a,b) の閉包は閉区間 [a,b] であることを確認せよ.

1.4 連続写像

X, Y を距離空間とする.写像 f : X → Y が点 x ∈ X において連続であるとは,y = f(x) とするとき,任意の正数 ε に対して,正数 δ が存在して,f(Bδ(x)) ⊂ Bε(y)) が成立することをいう.

さらに,写像 f が X のすべての点で連続であるとき,f は連続写像 であるという.

定理 1.5 距離空間 X,Y 間の写像 f : X → Y について,次は同値である (x ∈ X).

(i)   f は x において連続である.

(ii)  x に収束する任意の点列 { xn } について,Y の点列 { f(xn) } は点 f(x) に収束する.

(iii) f(x) を含む Y の任意の開集合 U について,点 x を含む X の開集合 V が存在して,V ⊂ f-1(U) が成立する.

証明 (i) ⇒ (ii) 点 x ∈ X に収束する X の点列 { xn} について,点列 f(xn) が y = f(x) に収束することを示す.任意の正数 ε に対して,f の連続性により,正数 δ が存在して,f(Bδ(x)) ⊂ Bε(y) が成立する.点列 { xn} が x に収束することから,ある N が存在して n ≧ N のとき,xn ∈ Bδ(x) となる.このとき,f(xn) ∈ Bε(y) が成立し,点列 { f(xn) } が y に収束することがわかる.

(ii) ⇒ (iii) 背理法.点 y = f(x) を含む Y の開集合 U が存在して,逆像 f-1(U) が点 x を含む開集合を含まないとする.このとき,どの正数 ε についても,Bε(x) f-1(U) となる.とくに,ε = 1/n とすることによって,点列 { xn} で,xn ∈ B1/n(x) かつ f(xn) U となるものがある.このとき,点列 { xn} は x に収束する.しかし,点列 { f(xn) } は y ∈ U に収束しないので,(ii) の仮定に反する.

(iii) ⇒ (i) 点 y = f(x) を含む Y の開集合の逆像が x を含む X の開集合を含むことを仮定する.任意の正数 ε に対して,Bε(y) は y を含む Y の開集合だから,仮定により,X の開集合 V が存在して,x ∈ V ⊂ f-1(Bε(y)) となる.開集合の定義から,ある正数 δ が存在して,Bδ(x) ⊂ V となる.したがって,f(Bδ(x)) ⊂ Bε(y)) が成立する.これは,x ∈ X における f の連続性にほかならない.

次は同値である.

  1. f は連続写像である.
  2. Y の任意の開集合 U について,逆像 f-1(U) は X の開集合である.

問題 X を距離空間とし,f を X 上の実数値連続関数とする.次を示せ.

  1. 集合 A = { x ∈ X | f(x) > 0 } は開集合である.
  2. 集合 B = { x ∈ X | f(x) = 0 } は閉集合である.
X,Y を距離空間とする.全単射写像 f : X → Y が存在して,f, f-1 共に連続写像であるとき,f を同相写像といい,X と Y は同相であるという.同相写像によって保存される性質を位相的性質という.

問題 f : X → Y が同相写像のとき,次を示せ.部分集合 U ⊂ X が X の開集合である必要十分条件は f(U) が Y の開集合であることである.


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