トポロジーと高分子

数学 下川航也 (2016年8月)


トポロジーとは、ものの形を数学的に扱う幾何学の一分野です。 その中でも私は、紐の形を扱う結び目理論の研究を行っています。 図に挙げたものは結び目の例です。トポロジーは「柔らかい幾何学」といわれ、 形を少し動かして変えても変わらない性質を研究しています。

紐状の構造を持つものとして、DNAがあります。細胞内のDNAの様子は、 非常に狭い領域にとても長い紐が効率よく収納されていると考えることが出来ます。 DNAは遺伝情報を読み取るときや細胞分裂の際には容易に取り出す必要があるため、 収納方法には工夫がいるはずですが、そのメカニズムはまだ分かっていません。 またDNAの一部に結び目があるかどうか、それが遺伝子の発現と関係があるかどうかは大変興味深い問題で、 色々と研究を行っています。

DNAの組換えは、DNAの繋がり方を変えますが、全体のトポロジーも変える場合があります。 組換えを行う酵素は小さく、それがどのように組換えを行っているかは観察することは出来ません。 しかし、組換え前のDNAのトポロジーと組換え後のDNAのトポロジーを調べることにより、 その働きの様子を解明することが出来ました。図に挙げた例は、DNA絡み目をDNAの組換えが解く様子です。そのメカニズムの解明では、トポロジーが大きな武器として活躍しています。

 図に挙げた結び目や絡み目とそれらの間の変化の様子は、自然界において色々な場所で現れるようです。流体力学において、渦を用いて結び目を作ったところ、同様な現象が観察されました。

また、最近では、複雑な形状を持つ高分子化合物が合成されています。 図に挙げたK3,3という名前がついたグラフの形をもつ高分子が、 東京工業大学手塚研究室において合成されました。 このような形を合成するのは、大変な努力が必要だったそうです。 現在、その性質をトポロジーの観点から研究しています。 K3,3は作り方によって、 不斉(鏡像がもとのものと異なるもの)の性質を持つ場合があります。 これはトポロジカル不斉というものですが、 どのように構成すればその性質を持つかを、数学的なモデルを用いて研究しています。 数学的な研究により、それを実際に合成したときの化学的性質を予測することが出来ます。 これまで考えられていなかった「形」を数学を用いて研究し、新しい高分子の提案を目指しています。